・・・T氏とハース氏とドイツ大尉夫妻と自分と合わせて五人の組を作ってこの老人の厄介になることにした。無蓋の馬車にぎし詰めに詰め込まれてナポリの町をめぐり歩いた。 とある寺院へはいって見た。古びたモザイックや壁画はどうしても今の世のものではなか・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・―― 何台も連結された無蓋貨車に出来たてのトラクターがのせられた。数百露里のレールの上を、新しい集団農場に向って走ってゆく。 そのレールを走るのは、重い貨車ばかりではなかった。三等列車も通る。 一九三〇年の春の種蒔どきには、風変・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・雨音を立てている前の家のトタン葺の屋根のはずれと、そのとなりの家の、燃火のけむりが低く雨の中に流れ出している土壁との間にある空地ごしに扇形にひらいた引込線に、石炭をつんだ無蓋貨車が何輌もつながったまま雨に打たれている。○がここへ着いた日に、・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
出典:青空文庫