・・・熾烈な日光が之を熱して更に熱する時、冷却せる雨水の注射に因って、一大破裂を来たしたかと想う雷鳴は、ぱりぱりと乾燥した音響を無辺際に伝いて、軈て其玻璃器の大破片が落下したかと思われる音響が、ずしんと大地をゆるがして更にどろどろと遠く消散する。・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・それを便宜のために抽象して離してしまって広い空間を勝手次第に抛り出すと、無辺際のうちにぽつりぽつりと物が散点しているような心持ちになります。もっともこの空間論も大分難物のようで、ニュートンと云う人は空間は客観的に存在していると主張したそうで・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・自分を生かせて呉れるものであると同時に自分を殺すものでもあるその力に働かされて、自分は止まれぬ渇望から、ささやかな努力と祈願とを、芸術の無辺際な創造的威力に捧げているのである。 この間中、田舎に行っていたうち何かで、或る作家が、女性の作・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・さらにその上に民主主義というものは人間の能力を無辺際に約束しているものです。私共は賢くなり、実行力ができ、組織をもつことによって、それは必ず私共に実現され得るという可能性を見せているのが民主主義的な国家のあらゆる段階なのです。だから、今日日・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
出典:青空文庫