・・・お前たちは遠慮なく私を踏台にして、高い遠い所に私を乗り越えて進まなければ間違っているのだ。然しながらお前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか、或はいたかという事実は、永久にお前たちに必要なものだと私は思うのだ。お前たちがこの書き物を・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ 然しながら現文壇の斯うした安易なだらけ切った状態はそう何時までも永続し得るものではない。何人もが世界平等の苦痛を共に嘗め、共に味わなくてはならないように、各人の生活内容が変ってきた時、其処から初めて新しい感激が湧き、本当の愛が生れてく・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・此の事件は余程世間を騒がせたと見えて、当時の新聞にも出たそうである。然しながら数日の後に其の接眼の縫目が化膿した為めに――恐らく手術の時に消毒が不完全だったのだろうと云う説が多数を占めている――彼女は再び盲目になって了ったそうである。当時親・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・是れ、げにも尊き祭始の宣言である。然しながら、未だ祭司長の云わざる処もある。これ実に祭司長が述べんと欲するものの中の糟粕である。これをしも、祭司次長が諸君に告げんと欲して、敢て咎めらるべきでない。諸君、吾人は内外多数の迫害に耐えて、今日迄ビ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・原作者の脚色であったそうだから、作者中本たか子氏も、脚色のときはその点に考慮されたところもあったろう。然しながら、舞台での友代の味はやはり何と云っても本間教子のもので、特に、第三幕第一場の、初めて友代が国婦の班長になって会議へ出た報告を、工・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・ 然しながら、それなら平穏なここがよいかと訊かれたら、私は直ぐ返事する。否だ。この小さな住宅地は隠居所である。私共のような人間の住場所には不適当だ。小さい商売を定った顧客対手にしつつ、その間で金を蓄めようとする小売商人は根性がどうも立派・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・けた文学をつくり出し、所謂文壇の拍手の高低によって心持を左右されることの少くないようなのに対して、一般民衆の裡にあるプロレタリア文学の質的差異に関する判断は、素朴ながら或る意味での健康性を保っていた。然しながら、発展した内容と表現とで自分た・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 現在われわれが住んでいる社会において、独占されている文化は進歩的な役割をはたしていず、反動的な内容を持ち反動的な目的のために動員されていることは、多言を要しない事実である。然しながら、歴史はまたわれわれに次のようなことをも教えている。・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ 作者が、北のはずれの野地にかこまれた小寒村にさえも、生きている農村の人間のさまざまのタイプを描こうとして、馬喰兼太、阿部、サダのおふくろなどをとらえている意企は明瞭である。 然しながら、それらの個々の人物とその行動とをいきいきと生・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・ 家庭を尊重し、一家における親子の生活に関心を置くわが民法は、妻に対し夫と同居せざるべからずという規定を設けている。然しながら、妻が、泥酔した夫や花柳病にかかっている夫との性的交渉を拒絶すべき母として当然の権利を、擁護してはいないの・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫