・・・ 然しながら、社会の機構が生み出している複雑な利害の分裂、悪徳、悲惨、戦争の惨禍などを、農民の素朴な信仰心で根絶しうるものでもないし、又そのような現実生活を、あるとおりの社会の中で実現し得るものでもない。トルストイが、彼の全精力の卓抜さ・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・にならねばならぬと述べている。然しながら、筆者が同じ論文で、日本のような特殊性をもつ国々では「先ず全般的〔二二字伏字〕を確立することが中心問題なのである」といっているのを見れば、文学におけるプロレタリア文学の創作方法の指導性の問題はおのずか・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・という今日の信念に到達した道には、石坂洋次郎として進展の足どりを認めることができるであろう。然しながら、すべての批評家が指摘している誇張癖とともに、作品のうちに試みられている強さ、逞しさ、単純で無垢な野蛮さへの翹望というようなものの本質は、・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ この期間は、今日になって眺めるとバルザックのさして永くない生涯にとって、最も急テムポに彼の政治上の王党派的傾向とカソリック精神とが堅められた時代であった。然しながら、この頽廃的で奢侈な公爵夫人との恋愛とその感化によって恐るべき浪費をし・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 然しながら、漱石が、人間性のより高さへの批判をもって観察した現実の自我は、社会の諸制約によって歪み、穢され、細分され、自我と利己との分別をさえ弁えぬ我と我との確執、紛糾であった。彼が晩年「明暗」を執筆していた頃の日記には、この偉大な芸・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ 然しながら、ここで云われている庶民性は、都会人性、町人性との区別を分明にしていない。庶民性そのものへの過剰な肯定があることから、散文精神なるものが従来の作家的実践のままでは、とかく無批判的な日暮し描写、或る意味での追随的瑣末描写の中に・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ 然しながら、そのような今日の到達点の内容こそ、実に積極的に評価され、批判されなければならぬ過去のこれらの努力の集積の上に展開されたものであることは、言うまでもない。芸術価値評価の規準についての論究、社会民主主義文学派の動向に対する注目・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・―― 然しながら、マクシム・ゴーリキイはその退屈をこらえ「絶大な緊張をもって、草鞋虫の這っている窖の壁を見つめ、坐りつづける。」彼の内心に答を求めて疼いている数限りのない「何故?」がそこから彼を去りかねさせるのであった。マクシムは、抑え・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・―― 然しながら、マクシム・ゴーリキイはその退屈をこらえ、「絶大な緊張をもって、草鞋虫の這っている窖の壁を見つめ、坐りつづける。」彼の内心に疼いている数限りのない「何故?」がそこから彼を去りかねさせるのであった。マクシムは、抑え難い感動・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・久しぶりで自分の子供の幼い顔を打ち眺めつつ、自分の見て来た世界の実際の大きさに今更ながら驚く気持など、読者にそれなりの心持としてふれて来るところも無いことはない。然しながら、全体としてこの一篇の作品が提出しているものは、世界の東西を貫いて、・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫