・・・そこまで落ちたら焼け死ぬ外はありません。帽子が大きな声を立てて、「助けてくれえ」 と呶鳴りました。僕は恐ろしくて唯うなりました。 僕は誰れかに身をゆすぶられました。びっくらして眼を開いたら夢でした。 雨戸を半分開けかけたおか・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・婦人はもうこれなり焼け死ぬものと見きわめをつけやっと帯や小帯をつないで子どもをしばりつけて川の上へたぐり下し、下を船がとおりかかったらその中へ落すつもりでまっているうちに、つい火気で目がくらんで子どもをはなしてしまい、じぶんも間もなく橋と一・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・大火が起れば旋風を誘致して焔の海となるべきはずの広場に集まっていれば焼け死ぬのも当然であった。これは事のあった後に思うことであるが、吾々には明日の可能性は勿論、必然性さえも問題にならない。 動物や植物には百千年の未来の可能性に備える準備・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・大火が起これば旋風を誘致して炎の海となるべきはずの広場に集まっていれば焼け死ぬのも当然であった。これは事のあった後に思うことであるが、われわれにはあすの可能性はもちろん必然性さえも問題にならない。 動物や植物には百千年の未来の可能性に備・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
出典:青空文庫