・・・だがそれらは青春のわくが如き浪曼性と、さかんなる精神的憧憬の煙幕の下に押しかくされ、眠らされているのだ。 結婚前の青年にとって、恋愛とは未来の「よりよき半分」を求めんとする無意識模索である。それは正統派の恋愛論の核心をなすところの、あの・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・国家の非常時に対する方面だけでも、煙幕の使用、空中写真、赤外線通信など、みんな煙の根本的研究に拠らなければならない。都市の煤煙問題、鉱山の煙害問題みんなそうである。灰吹から大蛇を出すくらいはなんでもないことであるが、大蛇は出てもあまり役に立・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ 薄曇りの午後、強い風が吹くごとに煙幕のような砂塵が往来に立った。窓硝子がガタガタ鳴った。洋袴のポケットへ両手を突こみ、社長が窓から外を眺めていた。「フッ! 何という埃だ。――こんなやつあニガリ撒いた位じゃ利かないもんかな」「―・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫