・・・ とうさんがこの新しい方針を選んで進もうとするのは、いろいろ前途を熟考した上での結果です。とうさんもこのまま老い朽ちてしまいたくないからです。何とか自分の生活を立て直し、適当な内助者を得て、今よりも自然に静かな晩年に達したいと思うからで・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・この一文にとりかかるため、私は、三夜、熟考した筈である。世間の常識ということについて考えていた。私たちは、全く、次の時代の作家である。それは信じなければいけない。そう在るべく努力してみなければいけない。意の在るところの一端は、諸兄にも通じた・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・しかしこれははたしてそうであるかどうか、よくよく熟考してみなければならないように私には思われる。第一に客観実在と称するものが物理学体系と独立に存在しうるかどうかが疑問である。また、物理学の系統は実験上の新発見と新概念の構成とによって本質的の・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 彼のエイトキン夫人に与えたる書翰にいう「此夏中は開け放ちたる窓より聞ゆる物音に悩まされ候事一方ならず色々修繕も試み候えども寸毫も利目無之夫より篤と熟考の末家の真上に二十尺四方の部屋を建築致す事に取極め申候是は壁を二重に致し光線は天井よ・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・ 凡そ一年も出してもらえたらと栄蔵は云ったけれ共病気の性をよくしって居る主婦は、とうていそれだけの間になおらない事を知って居たし、沢山の子供の学費、食客の扶助などで、中々入るから熟考した上での返事がいいと思って、又明日来てくれれば返事を・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 熟考の後、ロザリーの書いたのは、辞職届でした。彼女は比類のない婦人事務家としてフィールド銀行に持っていた地位を惜しげもなくすて、子供達を自分で見て行く決心をしたのです。彼女は、女性の理屈のない執着強さ、一つものを見始めると傍を見られな・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・で朝から夜までこき使われる者、理由もなく殴られ得る下積の存在として、天質の豪気さ、敏感さ、熟考的な傾向と共に、少年ゴーリキイの生活及び人間に対する観察力は非常に発達している。殆ど辛辣でさえある。現実は強く彼を鍛え、書物に対する判断、芸術にお・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そして、彼の敏感な感受性と自分の生活、人々の生活を熟考せずにはおけない気質とは、人々の中にあって益々多くの疑問にぶつかった。 例えば、汽船の皿洗い小僧として、十三歳のゴーリキイは朝から晩まで皿を洗う。鉢を洗う。ナイフを磨き、フォークと匙・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫