・・・それに、熱中して物を云うとき、体じゅうに押し出されて来る一種類の少いダイナミックな空気を画家だったら、どんな工合に捉えて再現するのだろう。 徳田さんのもっている色調はきついチョコレートがかった茶色であり、それに漆がかっているような艷があ・・・ 宮本百合子 「熱き茶色」
・・・ そう考えると、宗達は人間好きな、美しさに人間らしく熱中する男であったのだと思う。そういう気質らしい清潔さ、寛厚さ、こころの視角の高さも感じられるのである。 光琳が大成したという宗達の装飾的な一面は、その方向の極致なのだろうが、或る・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・しかも、作者は一種の熱中をもって主人公葉子の感情のあらゆる波を追究しようとしていて、時には表現の氾濫が感じられさえする。 葉子というこの作の主人公が、信子とよばれたある実在の婦人の生涯のある時期の印象から生れているということはしばしば話・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ムッソリーニは権力の確保のためにも資源リビヤへの大なる熱中を示している。そして、アフリカへ! 新しいラテン文化の地へ! というスローガンを文化科学の全面に押し出しているのである。 イタリーでは今「脱出の文学」ということが云われているそう・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・をかきながら、自分の文学のリアリズムに息がつまって、午前中小説をかけば午後は小説をかくよりももっと熱中して南画をかき、空想の山河に休んだということは、何故漱石のリアリズムが彼を窒息させたかという文学上の問題をおいても、大正初期の日本文化の一・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・こういうものは、すっかり、ステパン、イワンになり切って、自分達が傍から見て可笑しい何を云っているのも気づかず段々熱中して行くところに、自然な人間的な微笑が現れる筈なのだ。日本の所謂喜劇という概念に励まされて、賑やかに騒いだのでは仕方がない。・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・出来ない言葉を対手に分らせようとする熱中から私は不思議にその時聴衆の顔がはっきり見えた。私が「分りますか」というと「分る、心配するな」といってくれる髯の爺さんの笑っている顔もはっきり、よろこびをもって認めることが出来た。 これは小さい経・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・しかし腹の空いている方が先ですから、面白さを求めても満たされず、熱中する目当もはっきりしない。兎に角お腹が空くわという気持で、露店でも見ながら街を歩くでしょう。 今日あたりの新聞をみると、少年少女の犯罪が非常に多い。特に少女の脱線ぶりが・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・そうしてその体験の表現が、たとえば茸狩りにおける熱中や喜びの表情が、彼に茸の価値を教えたのである。だからここに茸の価値と言われるものは、この自己没入的な探求の体験の相続と繰り返しにほかならぬのであって、価値感という作用に対応する本質というご・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・諸君はその神々を祭るために眠りをも忘れて熱中する。けれども諸君はこの神々に真に満足しているか。予は散歩の途上、諸君の礼拝する所を見て歩いた時に、「知らざる神に」と刻りつけた一つの祭壇を見いだして非常に驚いたことがあった。諸君の中には確かにあ・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫