・・・――ヴィクトリアの秋―― これは、半熱帯の永劫冬にならない晩秋だ。夕暮、サラサラした砂漠の砂は黄色い。鳥や獣の足跡も其上になく、地平線に、黒紫の孤立したテイブル・ランドの陰気な輪廓が見える。低い、影の蹲ったようないら草の彼方此方・・・ 宮本百合子 「翔び去る印象」
・・・ 温帯や寒帯の植物は、熱帯になんかありません。僕知ってらあ」と云う風です。 可愛い女の子のドラは、ロザリー自身が熱中して聞いたお話に、つまらなそうな表情を示します。まるで空想のない、まるで感興のない子供達。ロザリーが選んでつけた学問のあ・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・病人は十二三の男の子である。熱帯地方の子供かと思うように、ひどく日に焼けた膚の色が、白地の浴衣で引っ立って見える。筋肉の緊まった、細く固く出来た体だということが一目で知れる。 暫く見ていた花房は、駒下駄を脱ぎ棄てて、一足敷居の上に上がっ・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫