・・・いや、むしろ前よりも熱烈に夫を愛しているのです。夫もまた妙子を信じている。これは云うまでもないことでしょう。そのために妙子の苦しみは一層つのるばかりなのです。 主筆 つまりわたしの近代的と云うのはそう云う恋愛のことですよ。 保吉 達・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・滝田君ほど熱烈に生活した人は日本には滅多にいないのかも知れない。 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・さらばといって、君に熱烈なある野心があるとも思えない。ときどきの消息に、帰国ののちは山中に閑居するとか、朝鮮で農業をやろうとか、そういうところをみれば、君に妻子を忘れるほどのある熱心があるとはみえない。 こういうと君はまたきっと、「いや・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・もし、芸術が真の発見であり、創意であり、作家の熱烈なる要求であることの代りに、通俗への合流に過ぎぬとしたら、何の教化ということもないでありましょう。 芸術は、凡俗生活に対する反抗からはじまったと見るべきが本当であります。今日の文化が、兎・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・あの熱烈な態度はどうであったか。彼の一生は続いて人間性のために苦しい戦であり、反抗であった。それから思えば、何処に現在のキリスト教徒にその熱烈さと、その厳粛さと反抗の精神が燃えているか。全世界を通じてキリスト教徒の数は夥しい。若しこれらの信・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・画家にして、同時に熱烈な詩人であったミレーの永久に民衆の良心に培う叫びが聞かれる所以なのです。 私は、思い出すまゝ、偶然ミレーを最初に例として言ったが、同じく、悲痛な、そして、民衆的な、言い換えれば人間的な、共に、人の心を動かさずには止・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・しかしすぐれた倫理学を熟読するならば、いかに著者の人間が誠実に、熱烈に、条理をつくして、その全容を表現しているかを見出して、敬慕の念を抱かずにはいられないであろう。それは文芸の傑作に触れた感動にも劣るものではない。そしてその感染性とわれわれ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・こちらの熱情がそれを呼びさまし、相手の注意がこちらに向いて、ついに熱烈な相思の仲になることもあるものだ。先方が稚い娘であるときにそうしたことがある。が、それにはよほどの熱誠と忍耐とがいるものだ。 が、それにもかかわらずどうしてもうまくい・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・彼は雷電のごとくに馳駆し、風雨のごとくに敵を吹きまくり、あるいは瀑布のごとくはげしく衝撃するかと思えば、また霊鷲のように孤独に深山にかくれるのである。熱烈と孤高と純直と、そして大衆への哭くが如きの愛とを持った、日本におけるまれに見る超人的性・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・は、なおそれ以上、微塵もその反映は見られない。「肉弾」は熱烈な愛国主義に貫かれている。 愛国主義は、それ自身決して不自然な感情でもないし、浅薄なものでもない。それは、「幾世紀も幾千年にも亘る祖国の存在によって固められた最も深い感情の一つ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
出典:青空文庫