・・・自由宗教より来る熱誠と忍耐と、これに加うるに大樅、小樅の不思議なる能力とによりて、彼らの荒れたる国を挽回したのであります。 ダルガスの他の事業について私は今ここに語るの時をもちません。彼はいかにして砂地を田園に化せしか、いかにして沼地の・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・が、それにはよほどの熱誠と忍耐とがいるものだ。 が、それにもかかわらずどうしてもうまくいかぬことがある。これが失恋のひとつの場合である。その淋しさはいうまでもない。この寂寥を経験した人は実に多い。 それから誓いあった相手に裏切られた・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・群衆はしかしあやしみつつ、ののしりつつもひきつけられ、次第に彼の熱誠に打たれ、動かされた。夜は草庵に人々が訪ねて教えをこいはじめた。彼は唱題し、教化し、演説に、著述に、夜も昼も精励した。彼の熱情は群衆に感染して、克服しつつ、彼の街頭宣伝は首・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・良人を思い、子を思う妻と母との熱誠が、変化した社会の事情の勢につれて、街頭にあふれ出た。この時はもう優美な日本女性のシンボルであった丸髷はエプロン姿にその象徴をゆずった。 エプロン姿は幾旬日かの間に、良人にかわって一家の経営をひきついで・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・抑圧との闘いによってプロレタリアとして目覚めた一移民労働者が、今や彼の賃金を百ドルから七十ドルに切り下げる恐慌に対して、利害の衝突する二つの資本主義国家間の泥仕合的排外主義に対し、ピオニイルの養成にも熱誠を示すというようなのでは決してない。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・の中庭にある崩れかけた倉庫住居の四年間、ラジウムを取出すために瀝青ウラン鉱の山と取組合って屈しなかった彼女の不撓さ、さらに溯ってピエールに会う前後、パリの屋根裏部屋で火の気もなしに勉強していた女学生の熱誠が、髪の白くなりかかっている四十七歳・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ けれども、今日みれば、リアリスティックな厚みと素朴な熱誠がその作品のネウチで、農村と農民の生活はどこまでも、幼い人道主義的観点から描かれている。農村の窮乏の資本主義による経済的背景、階級としての農民などという認識は、どこにもない。つま・・・ 宮本百合子 「「処女作」より前の処女作」
・・・河合栄治郎氏が、氏としての熱誠を傾けたこの論文の中で、若き時代に健全な人間性を取り戻すためには、従来の意味での形而上学的の理想主義の人生観を彼等の中に確立させてやらねばならないと主張しておられる。「希望館」の山村がそれに対する闘いは全く放棄・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・母と自分の為、一生の用意の為、自分は、心のあらいざらいの熱誠をこめて、話した。 母も泣かれる。 私なんかは、如何う云われようが、何と思われようがお前の芸術さえ、崇高なものになれば、構わない。けれども、そうは思えないのだもの、どうした・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ これらの人々は、いずれも自分の遭遇した時代の種々さまざまな矛盾をもっとも偽りない心で悩みつつ頑強に人類の幸福とより合理的な社会を求める熱誠を棄てなかった人々である。そして、永年にわたる困難な闘いを通じて、遂にその解決を見出した人々であ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫