・・・書物は専門的の述作ではない、多く一般の人間に共通な点について批評なり叙述なり試みた者であるから、職業のいかんにかかわらず、階級のいかんにかかわらず赤裸々の人間を赤裸々に結びつけて、そうしてすべての他の墻壁を打破する者でありますから、吾人が人・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・「すももは墻壁仕立です。ダイアモンドです。枝がななめに交叉します。一中隊はありますよ。義勇中隊です。」「やっぱりあんなでいいんですか。」「構いませんよ。それよりまああの梨の木どもをご覧なさい。枝が剪られたばかりなので身体が一向釣・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・ 活溌に、希望に満ちて、スタスタと歩いて行った彼女は思いがけないところで、牆壁に遮られた。 始めの一二度は、おや、ここを行ってはいけないのかしらんと思って、別に不思議を感じなかった彼女も、それが行く先々、どの方向にもつきまわっている・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫