九月二十四日、日曜日、空よく晴れて暑からず寒からず。数学の宿題も午前の中に片付けたれば午後半日は思うまま遊ぶべしと定まれば昼飯待遠し。今日は彼岸にや本堂に人数多集りて和尚の称名の声いつもよりは高らかなるなど寺の内も今日は何・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・もちろん楽器の原理は物理学的に普遍なものであるから、各国に同一な楽器のあるのは当然であり、また楽器の名称が往々擬音から生ずるとすれば、類似の名称のあるのは当然であると言って、簡単に片付けて投げ出してしまえばそれまでである。しかしそれで打ち切・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・にあると考えてみても、読者自身に切実な交渉のない、しかもいわゆる定型のためにかえって真実性の希薄になった社会記事と、事実はどうでも人間の中身にいくらか触れている小説や風聞録との価値の相違はそう簡単には片付けられないものだと私は思う。しかしそ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・或るとき家の諸道具を片付けて持出すゆえ、母が之を見て其次第を嫁に尋ぬれば、今日は転宅なりと言うにぞ、老人の驚き一方ならず、此人はまだ極老に非ず、心身共に達者にして能く事を弁ずれども、夫婦両人は常に老人をうるさく思い、朝夕の万事互に英語を以て・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ブドリが次の日、家のなかやまわりを片付けはじめましたら、てぐす飼いの男がいつもすわっていた所から古いボール紙の箱を見つけました。中には十冊ばかりの本がぎっしりはいっておりました。開いて見ると、てぐすの絵や機械の図がたくさんある、まるで読めな・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・そしてじぶんはまだろくに食べもしなかった膳を片付けはじめた。 嘉吉はマッチをすってたばこを二つ三つのんだ。それから横からじっとおみちを見るとまだ泣きたいのを無理にこらえて口をびくびくしながらぼんやり眼を赤くしているのが酔った狸のようにで・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・だから私の様な新米はとかく世間並のことを考えて、片付けるはいいけれど、私は私で片付け忘れるという病気でお話しの他の有様です。でもビトンはあんまり悪口は言えないわね。あ〔数字不明〕出したんだから。 十一月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・何をしていても同じ事で、これをしてしまって、片付けて置いて、それからというような考をしている。それからどうするのだか分からない。 そして花房はその分からない或物が何物だということを、強いて分からせようともしなかった。唯或時はその或物を幸・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ 外を片付けてしまって待っていた、まかないの男が、三人の前にあった茶碗や灰吹を除けて、水をだぶだぶ含ませた雑巾で、卓の上を撫で始めた。 森鴎外 「食堂」
・・・四 ところで内部に突き入ろうとする衝動を感じない人たちは、きわめて常識的な、普通一般の見方をもって人間の内部を片付けてしまう。そうしてただ外部のさまざまな変化や状態にのみ注意を集中する。彼らの「自然に即け」という意味は、右の・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫