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・・・あらず、あらず、時は必ず来たるべし―― 大空隈なく晴れ都の空は煤煙たなびき、沖には真帆片帆白く、房総の陸地鮮やかに見ゆ、射す日影、そよぐ潮風、げに春ゆきて夏来たりぬ、楽しかるべき夏来たりぬ、ただわれらの春の永久に逝きしをいかにせん――・・・
国木田独歩
「おとずれ」
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・・・鶴見崎のあたり真帆片帆白し。川口の洲には千鳥飛べり。源叔父は五人の客乗せて纜解かんとす、三人の若者駈けきたりて乗りこめば舟には人満ちたり。島にかえる娘二人は姉妹らしく、頭に手拭かぶり手に小さき包み持ちぬ。残り五人は浦人なり、後れて乗りこみし・・・
国木田独歩
「源おじ」