・・・そこでこの面白い若者の傍を離れないことにした。若者の方でも女が人がよくて、優しくて、美しいので、お役人の所に連れて行って夫婦にして貰った。 ツァウォツキイはそれからも身持を変えない。ある時はどこかの見せ物小屋の前に立って客を呼んでいるこ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「あの傍じゃ、おれが、誰やらん逞ましき、敵の大将の手に衝き入ッて騎馬を三人打ち取ッたのは。その大将め、はるか対方に栗毛の逸物に騎ッてひかえてあったが、おれの働きを心にくく思いつろう、『あの武士、打ち取れ』と金切声立てておッた」「はは・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・女の子は彼の傍へ寄って来て、「アッ、アッ。」といいながら座蒲団を灸の胸へ押しつけた。 灸は座蒲団を受けとると女の子のしていたようにそれを頭へ冠ってみた。「エヘエヘエヘエヘ。」と女の子は笑った。 灸は頭を振り始めた。顔を顰めて・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・腰懸の傍に置いてある、読みさしの、黄いろい表紙の小説も、やはり退屈な小説である。口の内で何かつぶやきながら、病気な弟がニッツアからよこした手紙を出して読んで見た。もうこれで十遍も読むのである。この手紙の慌てたような、不揃いな行を見れば見る程・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・若者は舟の傍木へ肩を掛ける。陸からは綱を引くものが諸声に力のリズムを響かせる。かくて波を蹴散らし、足をそろえ、声を合わせて舟を砂の上に引きずり上げて行く。 一艘上がるとともに、舟にいた若者たちは直ちに綱を取って海に向かった。次の一艘が磯・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫