・・・ まず溝を穿ちて水を注ぎ、ヒースと称する荒野の植物を駆逐し、これに代うるに馬鈴薯ならびに牧草をもってするのであります。このことはさほどの困難ではありませんでした。しかし難中の難事は荒地に樹を植ゆることでありました、このことについてダルガ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・さびしい野道を牛車に牧草を積んだ農夫がただ一人ゆるゆる家路へ帰って行くのを見たときにはちょっと軽い郷愁を誘われた。カールスルーエからはもうすっかり暗くなって、月明かりはあったが景色は見えなかった。科学を誇る国だけに鉄路はなめらかで、汽車の動・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 丘はすっかり緑でほたるかずらの花が子供の青い瞳のよう、小岩井の野原には牧草や燕麦がきんきん光っておりました。風はもう南から吹いていました。 春の二つのうずのしゅげの花はすっかりふさふさした銀毛の房にかわっていました。野原のポプラの・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・苹果や梨やまるめろや胡瓜はだめだ、すぐ枯れる、稲や薄荷やだいこんなどはなかなか強い、牧草なども強いねえ。」 又三郎はちょっと話をやめました。耕一もすっかり機嫌を直して云いました。「又三郎、おれぁあんまり怒で悪がた。許せな。」 す・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 器械はやっぱり凍ったはたけや牧草地の雪をふるわせてまわっています。 脱穀小屋の庇の下に、貯蔵庫から玉蜀黍のそりを牽いて来た二疋の馬が、首を垂れてだまって立って居ました。 赤シャツの農夫は馬に近よって頸を平手で叩こうとしました。・・・ 宮沢賢治 「耕耘部の時計」
・・・牛や馬や羊は燕麦や牧草をたべる。その為に作った南瓜や蕪菁もたべる。ごらんなさい。人間が自分のたべる穀物や野菜の代りに家畜の喰べるものを作っているのです。牛一頭を養うには八エーカーの牧草地が要ります。そこに一番計算の早い小麦を作って見ましょう・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫