・・・中にはそういう物乞いに慣れ、逆に社会の不合理を訴え、やる瀬のない憤りを残して置いて行くような人々も少なくない。私は自分に都合のできるだけの金をそういう人々の前に置き、「まっこと困ったら、来たまえ。」 と、よく言い添えた。そして、それ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・丁度使に出ていたので、立ちかけたが、どうも声が変な調子で、物乞いらしく感じられる。立ったまま躊躇していると、エーが、彼の部屋から、「お入んなさい」と云った。おや? と思うと「姉さん、いる?」とケイの声がし一緒に来た従弟達がどっとふき・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・尊い身分の人にはわからぬ事でござりまするが、貧しい一年中一枚の着物をまとって人の門に物乞いするのを恥かしいと思う処が(なりわいにして居る下賤なものどもは母親の胎から鳴きながら生れて三年も立てば、いじけた、かたくなな心を持つと申しますのじゃほ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫