・・・「物価暴騰時代。損をしない心得」この記事をよんで、『キング』が大衆の支持を失う日はもう見えていると強く感じた。 軍事経済政策で日用品の物価はこの五ヵ月間に三割近くあがったが、損をしないためには、「干饂飩なんかは一年分位買いため」「米・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・モラトリアムは物価との睨み合わせで、はじめて本当にものを云うのである。ところが、三月に入ってから、あらゆる物価は騰げられた。配給の米、醤油、そういう基本になる生活物資が約三倍になった。省線の二十銭区間は六十銭となり、四十銭で勤められた同じ距・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・この生活苦にあえぎ、悪税・物価高にあえぎながら、日本人の大多数がなお無条件に純然たるブルジョア政党、反民主政党を第一位に支持しているのだとすれば、その政治に対する無知と無判断なならわしは救うにかたいと悲しむにちがいない。日本の民衆が、永年の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・闇の紙で出した部数が多ければ多いほど、これだけ無理をしているのだからと、次期の割当を増している出版協会の割当方法も奇妙だし、きのうの新聞に出たように、原稿料を基準に本の定価をきめる、という物価庁の意見も腑におちない。文化現象としてよりもイン・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・軍事予算というものを、無法にどんどん出しましたから、それで、お金の値打ちが下って、物と金の釣合いがとれなくなって、物価は二十五倍に騰った。物価が騰ったから月給もあがったといって二十五倍になった月給を貰った人は一人もない。そのようにして、今度・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・これっぽちのお金しかないのに物価は高い。みな不思議なからくりで非常に猛烈な火の車でどうやらやっているのです。そんなような状態ですから、ましてお金をもっている人達の頭のよさ、それから社会に力をもっていることは猛烈なものです。ですから皆さんのお・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・一日一日と騰貴する物価に、決して追いつくことのない待遇改善の実情は、妻であり母である女性の辛苦を言語に絶した状態においています。若い勤労婦人にとって、現在のような経済上の危機は、彼女たちのモラルの危機としてあらわれています。更に、まだ全然社・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・益々労働条件は悪化し、戦争準備の金輸出再禁止で物価は三割がた上り、肥料の価さえ上った。賃銀は決してそれにつれて上らない。相場師と地主との庫で、米価はつり上げられるが、その米を辛苦して作った農村には何がのこされているか。朝鮮、台湾の殖民地で搾・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・奥羽その外の凶歉のために、江戸は物価の騰貴した年なので、心得違のものが出来たのであろうと云うことになった。天保四年は小売米百文に五合五勺になった。天明以後の飢饉年である。 医師が来て、三右衛門に手当をした。 親族が駆け附けた。蠣殻町・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・小倉は人気が悪くて、物価が高い。殊に屋賃をはじめ、将校の階級によって価が違うのは不都合である。休暇を貰っても、こんな土地では日の暮らしようがない。町中に見る物はない。温泉場に行くにしても、二日市のような近い処はつまらず、遠い処は不便で困る。・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫