・・・大好きですがどうも胡麻をかけただけでは物足りないので一工夫して、挽肉を味噌、醤油、砂糖で甘辛くどろりと煮て胡麻などの代りにかけていただきます。 中々誰にでも喜ばれます。 野菜と肉のいり煮 サラダ菜が好きです・・・ 宮本百合子 「十八番料理集」
・・・それ故何だか物足りない。ただ、九州に来て、線の素直な、簡明な樹幹ばかり眺めていたところへ、いやに動物的にうねくって縺れ合った檳榔樹の体やばさばさふりかぶった葉を見、暗く怪奇な印象を与えられたのは面白い。なるほど、南洋土人が、この樹の下で踊る・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ 婦人画家 茶の間で、壁のところへ一枚の油絵をよせかけて、火鉢のところからそれを眺めながら、画中のドックに入っている船と後方の丘との距離が明瞭でないとか、遠くの海上の島がもう一寸物足りないとか素人評をやっていると、女な・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・新鮮ではあるが、強烈さが足りないと自身に物足りないのです。部分的な力の入れかたではなく、内容にもっとぴったり迫ったところ、ね、膝づめのところ、それが不足している。おわかりになるでしょう? この感じは。「鏡餅」は去年の大晦日の或る女の感情を描・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・道を歩いても、ポツリポツリとほか人に会わなかったり、たまにガラガラ人力がすれ違う位では、のびやかだと云うのも一月位で、あとは、物足りない、何となく隙のある様な感じを与えられる。眠ったまま正月もたって行く。羽子を突く音もしなければ、凧のうなり・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・「これまで愚かしい生活をして来て自分の好きなまねばかりしていたが、絶えず物足りない心持で、決して幸福でない」父。マリアの養育のためには一スウの金も出さないのに、成長した美しい娘の上に威力をしめそうとする父。まだ美人といえる若さだのに、不・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・情感の鈍い、精神の死んだ年長者達と顔をつき合わせておれば、年が若いというだけでも充分溌溂とした女性達は、確に生活が淋しく物足りないに違いない。その感傷が、当人達も自覚しない自然の力にも手伝われて、友達や教師にひどくセンチメンタルな手紙を書か・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・息子との間は、生活的本質で断たれっぱなしで、そこはそれなりで、しゃっきり腰をひき立てた允子の姿は、人間的豊富さにおいて物足りない。 野上彌生子氏の「若い息子」における母の感情を、允子の場合と比べて、感じるものがあるのは私一人ではないだろ・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・娘さんたちはこの本をよんで、いろいろな点全くだわと共感しつつ同時に何となく物足りない底の足りないような感じを心のどこかに覚えるのではないだろうか。つまり、そこが現代の娘の感情の性格そのものだといわれてしまえば、それ迄のようなものだ。しかし、・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・それだけにまたその愛には物足りないところもないではない。深く胸を刺すというような趣は少ない。無限の深い神秘へ人をいや応なしに引きずり込んで行こうとするような趣も乏しい。彼はかつて老いたる偏盲に嗟嘆させた、「いやしかし俺は自然の美しさに見とれ・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫