・・・ 真面目な若い一人の特攻隊長が、自身の責任と人民の不幸とに刺戟されて、社会的解毒剤たる共産党に入党したという記事があった。若き率直さをほむべきかな。「選挙対策」に腐心して、一歩一歩人民の真の必要から離れつつある政党の首領たちは、その一歩・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 民主主義文学運動という声とともに、一部から反小林多喜二論は、反特攻隊精神と同性質のものであるかのように繁昌し、それとのたたかいに忙殺された。民主主義文学運動の中に、労働者階級の使命を明らかにして、おのずからプロレタリア文学の伝統のどの・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・甘いものも食い放題だし、ということは、はっきり特攻隊や予科練へ若ものをひきつける条件の一つだった。 米代りの砂糖が配給され、フィリッピンからの砂糖の話をよむとき、わたしたちは、砂糖一つについても、あるべき社会的な責任というものについて、・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・それは十四年間の戦争中に、戦争の段階に応じて残酷さの程度をまして来た。特攻隊をつくり出すまで非人道になり、絶望した若い人々を、そのせっぱつまった心理から、猛然として敵前上陸でも何でもしてしまうようにもって行った。ちゃんと心理的にそういう戦術・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・そのなかには、特攻隊へ連れ出された人もあったろう。徴用でいろいろな職場で働き、学徒動員で、生涯の目標を挫折された人も少くなかった。家を焼かれ、肉親と生活の安定を失った人も沢山あるだろう。めいめいの人生に、深い深い傷を受けて、そうして戦は終っ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 世界が驚きの眼をみはって眺めたものの一つに特攻隊というものがある。特攻隊に参加した若い人々の精神の中には、その人々自身にとってそれぞれ真面目な、情熱を傾けた思いがあったろう。けれども客観的にみればこれは日本の近代的重工業の生産力が全く・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 丹羽文雄は報道班員として行った特攻隊基地の実際の腐敗を、自分の内面生活にかかわりなくつきはなし、それとして描写して、作品としては読ますが、それ以上、文学的人間的感動をもっていない安易な態度があります。もうちょっと気がきいたような作家は・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ こういう風にインテリゲンツィアと民主主義の関係を真面目に理解すれば、この頃平野謙氏が反覆して云っているような、小林多喜二の死と特攻隊員の死とは、単に一つ歴史の両面であり、等しく犬死にであるという論の非現実なことが分って来る。オブローモ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・母親達は自分の可愛い息子が特攻隊となって殺されて行くこと。それを親たちは、どんなにいじらしく、止め難く、それ故猶いとしいことと思ったろう。可愛い娘達が動員されて工場で働く。それはよいとして、道徳的に低下した環境や、若い女性のためには苦痛の多・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫