・・・縞の背広を着たK君はもとは奉天の特派員、――今は本社詰めの新聞記者だった。「どうです? 暇ならば出ませんか?」 僕は用談をすませた頃、じっと家にとじこもっているのはやり切れない気もちになっていた。「ええ、四時頃までならば。………・・・ 芥川竜之介 「年末の一日」
・・・顔を出したのは大隊副官と、綿入れの外套に毛の襟巻をした新聞特派員だった。「寒い満洲でも、兵タイは、こういう温い部屋に起居して居るんで……」「はア、なる程。」特派員は、副官の説明に同意するよりさきに、部屋の内部の見なれぬ不潔さにヘキエ・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・氏は新政府に出身して啻に口を糊するのみならず、累遷立身して特派公使に任ぜられ、またついに大臣にまで昇進し、青雲の志達し得て目出度しといえども、顧みて往事を回想するときは情に堪えざるものなきを得ず。 当時決死の士を糾合して北海の一隅に苦戦・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・一九四一年十一月より五ヵ月ばかり、連合軍側の戦時特派員という資格で、アフリカ、近東、ソヴェト同盟、インド、中国を訪問し、ファシズム、ナチズムに対して民主主義をまもろうとする国々のたたかいの姿を報道した。「ポーランドに生れ、フランスに眠るわが・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・この雑誌の特派記者が、アメリカの人でもなかなか会えないデューイ夫妻に会見してとった記事ということであった。 某誌数万の婦人読者は、編集者のこんな先ばしりのみっともなさについても、どんなこころもちも動かされないというのだろうか。戦争中、一・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・それがでたらめの噂でなかった証拠には、トルーマンの当選が確認された翌五日、『朝日新聞』には、『主婦之友』が先ばしりの悲喜劇をあらわにして、特派記者による奇蹟的会見記という特報でデューイ夫妻会見記を仰々しく広告している。このでんで、『主婦之友・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 例えば一九二九年の夏、東支鉄道の問題が決裂して、ソ同盟と中国との国境で軍事行動が行われた時、ソヴェト同盟は極東特派軍を送った。この階級的軍隊は中国の村落を占領すると、先ずそこで何をやったであろうか。住民の逃げた後の民家を掠奪から保護し・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 我々の一列前に、大毎のモスクワ特派員が来ていた。幕間に、わたしたちに向って、 ――どうです?ときいた。 ――さあ。 ――なかなかよく踊りますね。 そして、クリーゲル一行七人かが、最近日本へ出かけることに略確定したと・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 例えば一九二九年、東支鉄道問題が起って、極東特派赤軍が、中国とソヴェトとの国境へ送られた。 赤軍は戦った。同時に占領した中国の村落へ、すぐ社会主義的な規律と文化とを移植した。彼等は、村の住民がすてて逃げた家々を掠奪から守り、農民が・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・ユウジン・リオンスという人はU・P特派員として六年ソヴェトにいたのだそうである。この人の文章を読むと、作家というものに対して筆者の抱いている評価、理解の低俗さに、どんな作家でも芸術の階級性以前の問題として一種の公憤を感ずるであろうと思う。・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫