・・・この柳は北海道にはあるが内地ではここだけに限られた特産種で春の若芽が真赤な色をして美しいそうである。 夕飯の膳には名物の岩魚や珍しい蕈が運ばれて来た。宿の裏の瀦水池で飼ってある鰻の蒲焼も出た。ここでしばらく飼うと脂気が抜けてしまうそうで・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・従って、チャンバレーンにも、メートル、ペリーにも、クーシューにもわからなかったこの東洋日本特産芸術が、チャップリンに完全にのみ込めようとは思われないのであるが、しかし、西洋のあらゆる芸術のうちで、文楽の人形芝居にもっとも近いものは、おそらく・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・や、わが国特産の千代紙人形映画や、またミッキーマウスやうさぎのオスワルドやあるいはビンボーなどというおとぎ話的ヒーローを主題とした線画の発声漫画のごときものがある。まずい名称であるがかりにこれらを人工映画という名前で一括することにする。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これに比較さるべき唯一の芸術形式は東洋日本の特産たる俳諧連句である。 はなはだ拙劣でしかも連句の格式を全然無視したものではあるがただエキスペリメントの一つとして試みにここに若干の駄句を連ねてみる。草を吹く風の果てなり雲の峰・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・破天荒と考えられる素量説のごときも二十世紀の特産物ではないようである。エピナスの古い考えはケルビン、タムソンの原子説を産んだ。デカルトの荒唐な仮説は渦動分子説の因をなしているとも見られる。植物学者ブラウンの物好きな研究はいったん世に忘れられ・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ S軒のB教授の部屋の入り口の内側の柱に土佐特産の尾長鶏の着色写真をあしらった柱暦のようなものが掛けてあった。それも宮の下あたりで買ったものらしかったが、教授のなくなった日、室のボーイが自分にこの尾長鶏を指さしながら「このお客さんは、い・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・はどうも日本の特産物ではないかという気がする。シナのような大陸にも「涼」の字はあるが日本の「すずしさ」と同じものかどうか疑わしい。ほんのわずかな経験ではあるが、シンガポールやコロンボでは涼しさらしいものには一度も出会わなかった。ダージリンは・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・との配偶によってのみ生み出され得べき特産物であった。吾々は彼の生涯の記録と彼の全集とを左右に置いて較べて見るときに、始めて彼の真面目が明らかになると同時に、また彼のすべての仕事の必然性が会得されるような気がする。科学の成果は箇々の科学者の個・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ しかしなんと言っても俳諧は日本の特産物である。それはわれわれの国土自身われわれの生活自身が俳諧だからである。ひとたび世界を旅行して日本へ帰って来てそうして汽車で東海道をずうっと一ぺん通過してみれば、いかにわが国の自然と人間生活がすでに・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫