・・・ちに直接に、自分として持ってきたすべてを捧げたい――そうしたところに自分の救いの道があるのではあるまいか、などと、いつものアル中的空想に囚われたりしたが、結局自分はその晩の光景に圧倒され、ひどく陰鬱な狂おしいような気持で、十二時近く外へ出た・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・ あの狂おしい青春の頃に、我もし学にいそしみ、風習のよろしき社会にこの身を寄せていたならば、いま頃は家も持ち得て快き寝床もあろうに。ばからしい。悪童の如く学び舎を叛き去った。いま、そのことを思い出す時、わが胸は、張り裂けるばかりの思いがする・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・けれどもその高慢にして悧※、たとえば五月の青葉の如く、花無き清純のそそたる姿態は、当時のみやび男の一、二のものに、かえって狂おしい迄の魅力を与えた。 アグリパイナは、おのれの仕合せに気がつかないくらいに仕合せであった。兄は、一点非なき賢・・・ 太宰治 「古典風」
出典:青空文庫