・・・そして、さまざまな売名行為に狂奔した。れいによって「真相をあばく」に詳しい。 ――手をかえ、品をかえ、丹造が広告材料に使った各種の売名行為のなかで、これだけはいくらか世のためになったといえるのがあるとすれば、貧病者への無料施薬がそれ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・三期に這入って帝国主義戦争が間近かに切迫して来るに従って、ブルジョアジーは入営する兵士たちに対してばかりでなく、全国民を、青年訓練所や、国家総動員計画や、その他あらゆる手段をつくして軍国主義化しようと狂奔している。そして、それはまた、労働者・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・おのれひとりの死場所をうろうろ捜し求めて、狂奔していただけの話である。人のためになるどころか、自分自身をさえ持てあました。まんまと失敗したのである。そんなにうまく人柱なぞという光栄の名の下に死ねなかった。謂わば、人生の峻厳は、男ひとりの気ま・・・ 太宰治 「花燭」
・・・ 泣くような笑うような不思議な声を挙げて、若い女のひとたちにも挨拶して、またもくるくるコマ鼠の如く接待の狂奔がはじまりまして、私がお使いに出されて、奥さまからあわてて財布がわりに渡された奥さまの旅行用のハンドバッグを、マーケットでひらい・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・私も、大兄お言いつけのものと同額の金子入用にて、八方狂奔。岩壁、切りひらいて行きましょう。死ぬるのは、いつにても可能。たまには、後輩のいうことにも留意して下さい。永野喜美代。」「先日は御手紙有難う。又、電報もいただいた。原稿は、どういう・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・物が足りない物が足りないと言って、闇の買いあさりに狂奔している人たちは、要するに、工夫が足りないのです。研究心が無いのです。このお隣りの畳屋にも東京から疎開して来ている家族がおりますけれども、そこの細君がこないだうちへやって来て、うちの細君・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・決していいかげんの狂奔ではなくて複雑な編隊運動になっていることがわかる。 役者も皆それぞれにうまいようである。アメリカ役者にはどこを捜してもない一種の俳味といったようなものが、このルイとエミールの二人にはどこかに顔を出しているのがおもし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 女中が迎えに来て荷馬車で帰る途中で、よその家庭の幸福そうな人々を見ているうちににんじんの心がだんだんにいら立って来て、無茶苦茶に馬を引っぱたいて狂奔させる、あすこの場面の伴奏音楽がよくできているように思う。ほんとうにやるせのない子供心・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・舟傾く時海また傾いて深黒なる奔潮天と地との間に向って狂奔するかと思わるゝ壮観は筆にも言語にも尽すべきにあらず。甲の浦沖を過ぐと云う頃ハッチより飯櫃膳具を取り下ろすボーイの声八ヶましきは早や夕飯なるべし。少し大胆になりて起き上がり箸を取るに頭・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・そういう意味における統制的要素としての定座が勤めるいろいろの役割のうちで特に注目すべき点は、やはり前述のごとき個性の放恣なる狂奔を制御するために個性を超越した外界から投げかける縛繩のようなものであるかと思われる。個性だけでは知らず知らずの間・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫