・・・円形運動ではレコードや、ダイアルの回転があるほかに、新工場開場式のクライマックスに吹き起こる狂風の複雑な旋転的乱舞がやはり全編の運動のクライマックスを成しているのである。そのあとで、解放された男女職工が野外のメイポールの下で踊るのがやはり円・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかし、降雹がなくとも、狂風にあおられた街頭の雑品が飛んで来てぶつかれば結果は同様である。その時のために今から用心したいと思う人は、簡単に金網で囲んでおけばいいと思うが、なんでもあすの用心をするということはおよそ近代的でないらしい。 暴・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・そういう時によく武蔵野名物のから風が吹くことがあってせっかく咲きかけた藤の花を吹きちぎり、ついでに柔らかい銀杏の若葉を吹きむしることがあるが、不連続線の狂風が雨を呼んで干からびたむせっぽい風が収まると共に、穏やかにしめやかな雨がおとずれて来・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・この人文的自然現象をどうすることもできないのである。この狂風が自分で自分の勢力を消し尽くした後に自然になぎ和らいで、人世を住みよくする駘蕩の春風に変わる日の来るのを待つよりほかはないであろう。 それにしても毎日毎夕類型的な新聞記事ばかり・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 小さな不連続線が東京へかかったと見えて、狂風が広小路を吹き通して紳士の帽を飛ばし淑女の裾を払う。寒暖二様の空気が関東平野の上に相戦うために起る気象現象である。気層の不平の結果である。 昔、不平があると穴を掘ってはこっそりその中へ吐・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・ ある日曜日の朝顕著な不連続線が東京附近を通過していると見えて、生温かい狂風が軒を揺がし、大粒の雨が断続して物凄い天候であった。昼前に銀座まで出掛けたら諸所の店前の立看板などが吹き飛ばされ、傘を折られて困っている人も少なくなかった。日本・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
出典:青空文庫