・・・ 目ばかり黒い、けばけばしく真赤な禅入を、木兎引の木兎、で三寸ばかりの天目台、すくすくとある上へ、大は小児の握拳、小さいのは団栗ぐらいな処まで、ずらりと乗せたのを、その俯目に、ト狙いながら、件の吹矢筒で、フッ。 カタリといって、発奮・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ と訊くから、そういうのが、慌てる銃猟家だの、魔のさした猟師に、峰越しの笹原から狙い撃ちに二つ弾丸を食らうんです。……場所と言い……時刻と言い……昔から、夜待ち、あけ方の鳥あみには、魔がさして、怪しいことがあると言うが、まったくそれは魔がさ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ いったい丹造がこの写真広告を思いついたのは、肺病薬販売策として患者の礼状を発表している某寺院の巧妙な宣伝手段に狙いをつけたことに始まり、これに百尺竿頭一歩をすすめたのであるが、しかし、どう物色しても、川那子薬で全快したという者が見当ら・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・いっそ、懸賞募集を狙いましょうか。黙ってる方がかしこいでしょう。然し、太宰治さん、できたら、ぼくに激励のお手紙を下さい。もう四日出勤して五日も経てば、ぼくは腐りの絶頂でしょう。今晩は手紙を書くのがイヤです。明晩明後日と益々イヤになるでしょう・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・一九〇九年型の女優が一九三四年式のぴちぴちした近代娘に蝉脱した瞬間のスリルがおそらくこの作者の一番の狙いどころではないかと思われる。その後の余波となるべき裁判所の場面もちょっと面白い。証拠物件に蝋管蓄音機が持出されたのに対して検事が違法だと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・しかし、こういう代表的なアカデミックな仕事ですらも審査員の眼界があまりに狭くてその部門のその問題の他の方面にまで眼が行届かないような場合には、そこに提出された論文のせっかくの狙い所が正常の価値を認められずに軽視されることも実際にあり得るので・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ この蛾は、戸外がすっかり暗くなって後は座敷の電燈を狙いに来る。大きな烏瓜か夕顔の花とでも思うのかもしれない。たまたま来客でもあって応接していると、肝心な話の途中でもなんでも一向会釈なしにいきなり飛込んで来て直ちに忙わしく旋回運動を始め・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・少し無理なところもあるが、狙い処は人間のかくれた心理の描写にある。この一篇で、幽閉された女中等が泣いたり読経したりする中に小唄を歌うのや化物のまねをして人をおどすのがあったりするのも面白い。その外にも、例えば「人の刃物を出しおくれ」「仕もせ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・頭の上で近付けた両手を急速に左右に離して空中に円を描くような運動、何かものを跨ぎ越えるような運動、何ものかに狙い寄るような運動、そういうような不思議な運動が幾遍となく繰り返された。 前の二種の舞がいかにもゆるやかな、のんびりとしたもので・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・世の中が真暗くなったような錯覚を起こさせるのがジャーナリズムの狙い所ではあろうが、考えてみるとどこの世界にでも与太者のユーモレスクのない世界はないであろう。そんなものにばかり気を取られていると自分の飯に蠅がたかる。こんな新聞記事をよむ暇があ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
出典:青空文庫