・・・中学の四年か五年の時に英訳の「猟人日記」だの「サッフォオ」だのを読みかじったのは、西川なしにはできなかったであろう。が、僕は西川には何も報いることはできなかった。もし何か報いたとすれば、それはただ足がらをすくって西川を泣かせたことだけであろ・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・「ええ、ござりますとも、人足も通いませぬ山の中で、雪の降る時白鷺が一羽、疵所を浸しておりましたのを、狩人の見附けましたのが始りで、ついこの八九年前から開けました。一体、この泊のある財産家の持地でござりますので、仮の小屋掛で近在の者へ施し・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ その途中で、知らない猟人に出あいました。その猟人もこれから山へ、くまを打ちにゆこうというのです。その男は、傲慢でありまして、なにも獲物なしに帰る猟人を見ますと鼻の先で笑いました。「私は、これまで山へはいって、から手で家へ帰ったこと・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
・・・と訊きながら狩人の顔を見るように、プラタプの面を見守りました。 其日、彼女はもういつもの木の下には座りませんでした。スバーが、父の足許に泣き倒れて、顔を見上げ見上げ激しく啜泣き出した時、父親は、丁度昼寝から醒めたばかりで、寝室で煙草・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・で引き上げる狩人たちのスローモーションは少し薬がきき過ぎた形である。 舞踊会の「アパッシュの歌」とその画面は自分にはあまりおもしろくなかった。何かが一つ足りないような気がする。どこかに無理があるであろう。 仕立て屋だということがわか・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・諸国の天女は漁夫や猟人を夫としていつも忘れ得ず想っている。底なき天を翔けた日を人の世のたつきのあわれないとなみやすむ間なきあした夕べにわが忘れぬ喜びを人は知らない。 諸国の天女、女たちが忘れぬ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・そこには、娘が年を重ね生活の経験を深めるにつれて、いよいよ思いやりをふかめずにいられなくなるような、若々しくしかも老年の思慮にみちた父のある情感、感懐が花や森や猟人に象徴して語られているのである。〔一九四一年四月〕・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・の時脊髄癌を病ってパリで死ぬまで、ツルゲーネフは有名な農奴解放時代の前後、略三十年に亙るロシアの多難多彩な社会生活と歴史の推進力によって生み出される先進的な男女のタイプとを、世界的に知られている小説「猟人日記」、「ルージン」、「その前夜」、・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
〔大正三年予定行事〕 一月、「蘆笛」、「千世子」完成〔一月行事予記〕「蘆笛」、「千世子」完成 To a sky-Lark 訳、「猟人日記」、「希臘神話」熟読「錦木」一月一日晴 寒〔摘要〕四方拝出席・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ そのとき猟人の胸に満ちる、緊張した原始的な嬉しさが、そのまま今年寄りに活気を与えて、何だか絶えずそわそわしている彼女は、きっとこういうときほか出ないものになっている無駄口をきいたり、下らないことに大笑いをして、「ヘッ、馬鹿野郎が!・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫