・・・銘々が銘々の仕事を独力でやって行くのに或る促進を受ける。これは確かに北海道の住民の特異な気質となって現われているようだ。若しあすこの土地に人為上にもっと自由が許されていたならば、北海道の移住民は日本人という在来の典型に或る新しい寄与をしてい・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・のみならず、いかに門前の俥夫だったとはいえ、殆んど無学文盲の丹造の独力では、記事の体裁も成りがたくて、広告もとれず、たちまち経営難に陥った。そこを助けたのが、丹造今日の大を成すに与って力のあった古座谷某である。古座谷はかつて最高学府に学び、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・男子が独力で妻子を養うことができないための共稼ぎの必要によるものである。適当の収入さえあれば、夫への心をこめた奉仕と、子どもの懇ろなる養育と、家庭内の労働と団欒とを欲する婦人が生計の不足のためにやむなく子供を託児所にあずけて、夫とともに家庭・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・「どうして独力で生活できないのだろうね。さかなやをやったって、いいんだ。」「誰も、やらせてくれないよ。みんな、意地わるいほど、私たちを大切にしてくれるからね。」「そうなんだよ、K。僕だって、ずいぶん下品なことをしたいのだけれど、みん・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・それも、決して独力で、とは言わない。数十人の智慧ある先賢に手をとられ、ほとんど、いろはから教えたたかれて、そうして、どうやら一巻、わななくわななく取りまとめた。 面白いかね? すこし冗談いいすぎたようである。私は、いま、机の前に端座・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・当時巴里に於て、一邦人が独力にしてマネエ、ロダンの如き巨匠の製作品と、又江戸浮世絵の蒐集品とを仏蘭西人の手より買取ったことがあった。是亦戦争の余沢である。オペラは帝国劇場を主管する山本氏の斡旋に依って邦人の前に演奏せられ、仏蘭西近世の美術品・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・弘化三年七月洪水のために桜樹の害せられたものが多かったので、須崎村の植木師宇田川総兵衛なる者が独力で百五十株ほどを長命寺の堤上に植つけた。それから安政元年に至って更に二百株を補植した。ここにおいて隅田堤の桜花は始て木母寺の辺より三囲堤に至る・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 何も、総ての女性が経済上独力で生活すべき、と云う為にこの事が心に必要を感じさせたのではありません。或る事――或る生活が、或る時代の多数の人間をより正しく――輝しく意義あるように生かせるとしたら、それを完うするために、相互の深い理解と愛・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
出典:青空文庫