・・・ 彼等は、上野の山で解散したデモのくずれが、各所で狼火のような分散デモを行うことを、かくも戦々兢々と恐怖していたのである。 自分は初め、何のために高等へ出しておかれたのか分らなかった。初めは恐らく自分に日本の発達した警察網の活動ぶり・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・今度の狼火は九月三日で、その間に二十五年の歳月があった。あの時分、二十五歳であった若い娘、若い妻、そしてその若い母のおののく胸に抱きしめられて無心に飢餓の時代も経た嬰児たちは、今や二十五歳の青年であり、娘である。彼等の或るものは、昔その母が・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・日本の人民のための文学の狼火として存在したプロレタリア文学運動の歴史と、文学についてのその基本的認識が、よしやどんなに大まかなものであり、不幸な傷をうけているにしろ、絶対的に存在価値をもっている所以である。 三・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫