・・・ただ蔵経はかなり豊富だったので、彼は猛烈な勉強心を起こして、三七日の断食して誓願を立て、人並みすぐれて母思いの彼が訪ね来た母をも逢わずにかえし、あまりの精励のためについに血を吐いたほどであった。 十六歳のとき清澄山を下って鎌倉に遊学した・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そういう時には、片岡直温のヘマ振りまで引っぱり出して猛烈に攻撃する。 演説会とは、反対派攻撃会である。 そこへ行くと、無産政党の演説会は、たいていどの演説会でも、既成政党を攻撃はするが、その外、自分の党は何をするか、を必ず説く。そこ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・に連載せられていたのは、あれは、あなたが三十二、三歳の頃の事であったと思われますが、あの頃、あなたが世の中から受けていた悪評は、とても、猛烈なものでありました。あなたは、完全に、悪徳漢のように言われていました。けれども、私は、あなたの作品の・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・小さい遺書のつもりで、こんな穢い子供もいましたという幼年及び少年時代の私の告白を、書き綴ったのであるが、その遺書が、逆に猛烈に気がかりになって、私の虚無に幽かな燭燈がともった。死に切れなかった。その「思い出」一篇だけでは、なんとしても、不満・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・右の腕を、虚空を斫るように、猛烈に二三度振って、自分の力量と弾力との衰えないのを試めして見て、独り自ら喜んだ。それから書いたものをざっと読んで見た。かなりの出来である。格別読みづらくはない。いよいよ遣らなくてはならないとなると、遣れるものだ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・十回目あたりからベーアのつけていた注文の時機が到来したと見えて猛烈をきわめた連発的打撃に今までたくわえた全勢力を集注するように見え、ようやく疲れかかったカルネラの頽勢は素人目にもはっきり見られるようになった。 第十一回目のラウンドで、審・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・またよくかき廻して丁度になっていても、一方で燃料が唸って燃え上がっているのでは這入っているうちにすぐに猛烈に熱くなって来るから工合が悪い。これらも少し科学的に頭を使ってやれば、燃料が燃え切った頃にだいたい丁度になるようにするくらいは、何でも・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ 大正十二年の震災にも焼けなかった観世音の御堂さえこの度はわけもなく灰になってしまったほどであるから、火勢の猛烈であったことは、三月九日の夜は同じでも、わたくしの家の焼けた山の手の麻布あたりとは比較にならなかったものらしい。その夜わたく・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・なるほど以上二種の活力の猛烈な奮闘で開化は贏ち得たに相違ない。しかしこの開化は一般に生活の程度が高くなったという意味で、生存の苦痛が比較的柔げられたという訳ではありません。ちょうど小学校の生徒が学問の競争で苦しいのと、大学の学生が学問の競争・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・性の知れぬ者がこの闇の世からちょっと顔を出しはせまいかという掛念が猛烈に神経を鼓舞するのみである。今出るか、今出るかと考えている。髪の毛の間へ五本の指を差し込んでむちゃくちゃに掻いて見る。一週間ほど湯に入って頭を洗わんので指の股が油でニチャ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫