・・・かえってこういう空想を直ちに実現しようと猛進する革命党や無政府党の無謀無考慮無経綸を馬鹿にし切っていた。露都へ行く前から露国の内政や社会の状勢については絶えず相応に研究して露国の暗流に良く通じていたが、露西亜の官民の断えざる衝突に対して当該・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・がためには紀念すべき人である、だからこの画をこの老爺にくれてやって八幡に奉納さすれば、われにもしこの後また退転の念が生じたとき、その八幡に行ってこの画を見て今日のことを思い出せば、なるほどそうだとまた猛進の精神を喚起さすだろう。そうだとこう・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・ただに死を恐怖しないのみでなく、あるいは恋のために、あるいは名のために、あるいは仁義のために、あるいは自由のために、さては現在の苦痛からのがれんがために、死に向かって猛進する者すらあるではないか。 死は、古からいたましいもの、かなしいも・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・啻だに死を恐怖しないのみでなく、或は恋の為めに、或は名の為めに、或は仁義の為めに、或は自由の為めに、扨は現世の苦痛から遁れんが為めに、死に向って猛進する者すら有るではない歟。 死は古えから悼ましき者、悲しき者とせられて居る、左れど是は唯・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・自然主義者にして今少し手強く、また今少し根気よく猛進したなら、自ら覆るの未来を早めつつある事に気がつくだろう。人生の全局面を蔽う大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、茫漠たる輪廓中の一小片を堅固に把持して、其処に自然主義の恒・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・らず向うの四ツ角に立ている巡査の方へ向けてどんどん馳けて行く、気が気でない、今日も巡査に叱られる事かと思いながらもやはり曲乗の姿勢をくずす訳に行かない、自転車は我に無理情死を逼る勢でむやみに人道の方へ猛進する、とうとう車道から人道へ乗り上げ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・宗教の信仰に救われて全能者の存在を霊妙の間に意識し断乎たる歩武を進めて Im schnen, Im guten, Im ganzen, に生くべく猛進するわが理想であると言ったら、ある人は嘲笑した。我れに取っては最も明白合理なる信念である。・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫