・・・いようと肉体の労働にしたがっている人々であろうと、いわば常識の底岩として、それぞれの理解力にしたがって生活知識のうちにうけいれられていていいはずの、この本の赤茶色が、日本では思想犯のきせられる煉瓦色の獄衣の色に通じていた。過去十数年の間、ひ・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・ソヴェトの裁判が公開であるということ、監獄が、後れた労働者をよい労働者に仕上げて出すためのところと考えられているということ、獄衣などないこと等、こまかく一つ一つ日本の有様とひき比べての演説は実に聞いていて飽きません。たとえば共産党の公判が、・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・茶っぽい粗布の獄衣を着せられた活人形がその中で、獣のような抑圧と闘いながら読書している革命家の姿を示している。 工場や集団農場から樺の木の胴乱を下げてやって来た労働者農民男女の見学団は、賑やかに討論したり笑ったりしながらノートを片手にゾ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・その下に体の大きい重吉がはげた赭土色の獄衣を着て、いがぐり頭で、終日そうやって縫っている。重吉の生きている精神にかけかまいなく、それが規則だからと、朝ごとに彼に向ってぶちこまれるボロ。どんな物音も立たない、機械的な、それだから無限につづいて・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫