・・・「でも、大砲や、弾薬を供給してるんじゃないんか?」「それゃ、全然作りことだ。」「そうかしら?」 大興駅附近の丘陵や、塹壕には砲弾に見舞われた支那兵が、無数に野獣に喰い荒された肉塊のように散乱していた。和田たちの中隊は、そこを・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・汽車には宵のうちから糧秣や弾薬や防寒具が積込まれた。夕闇が迫って来るのは早く、夜明けはおそかった。 栗本は、長い夜を町はずれの線路の傍で、幾回となく交代しつゝ列車の歩哨に立った。朝が来るのを待って兵士達は、それに乗りこんで出発するのだ。・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・みな、銃と剣と弾薬を持った。そこで防備は、どこだと思う? 古城子の露天掘りだ! 石炭を掘っている苦力の番をするのだ。「なに! 苦力の番だって! 馬鹿にしてやがら!」 とおれはバカバカしくなった。「そんな文句は云わんでもよろしい。・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・ 家屋の彼方では、徹夜して戦場に送るべき弾薬弾丸の箱を汽車の貨車に積み込んでいる。兵士、輸卒の群れが一生懸命に奔走しているさまが薄暮のかすかな光に絶え絶えに見える。一人の下士が貨車の荷物の上に高く立って、しきりにその指揮をしていた。・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・つかみかかったときの騒ぎにまぎれて弾薬をすり取っていたのである。敵将のいった言葉がここで皮肉に生きて来て観客を喜ばせるのである。 九 アラン「ベンガルの槍騎兵」などとは全く格のちがった映画である。娯楽として見るにはあ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・その後から年とった女達が鍬の上に泥を引っかけたのを提げて弾薬補給の役目をつとめるためについて行くのである。とうとうつかまって顔といわず着物といわずべとべとの腐泥を塗られてげらげら笑っている三十男の意気地なさをまざまざと眼底に刻みつけられたの・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
出典:青空文庫