・・・が、露伴の名をして一躍芸壇の王座を争うまでに重からしめたのは『風流仏』であった。『露団々』は露伴の作才の侮りがたいのを認めしめたが、奇想天来の意表外の構作が読者を煙に巻いて迷眩酔倒せしめたので、私の如きも読まない前に美妙や学海翁から散々褒め・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・「われ、かつて王座にありき。いまは、庭の、薔薇の花を見て居る。」これは友人の、山樫君の創った言葉である。 私の庭にも薔薇が在るのだ。八本である。花は、咲いていない。心細げの小さい葉だけが、ちりちり冷風に震えている。この薔薇は、私が、瞞さ・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・旧い権威は、王座において個々の家庭において崩れた。この社会的不安が肉体にあらわす精神障害を、一つの抑圧されたコムプレックスとしてフロイドは解明しようとした。当時でも、この方法は十分科学的ということはできない、精神現象の生物的性格に局限された・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫