・・・きのうもゆう方、君が来て呉れるというハガキを見てから、それをほところに入れたまま、ぶらぶら営所の近所まで散歩して見たんやけど、琵琶湖のふちを歩いとる方がどれほど愉快か知れん。あの狭い練兵場で、毎日、毎日、朝から晩まで、立てとか、すわれとか、・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・それから、もう一つは、琵琶湖の近所から伊勢、伊賀、大和、あの辺に山脈がありますが、あの山脈にもちょいちょい居るそうでございます。その他は、四国にも九州にもいまのところ見当らぬそうで、箱根サンショウウオというのが関東地方に棲息して居りますけれ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ 冬季における伊吹山地方の気象状態を考える前には、まずこの地方の地勢を明らかにしておく必要がある。琵琶湖の東北の縁にほぼ平行して、南北に連なり、近江と美濃との国境となっている分水嶺が、伊吹山の南で、突然中断されて、そこに両側の平野の間の・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・の中心は土佐の東端沿岸の山づたいに徳島の方へ越えた後に大阪湾をその楕円の長軸に沿うて縦断して大阪附近に上陸し、そこに用意されていた数々の脆弱な人工物を薙倒した上で更に京都の附近を見舞って暴れ廻りながら琵琶湖上に出た。その頃からそろそろ中心が・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・第一、ドンコは南方の魚で、日本では大体、琵琶湖から西方のみに棲息している。ダボハゼに似ているので、関東方面でもドンコを見たという人があるけれども、学問的にもいないことが証明されている。 魚の辞典を引いてみると、ドンコはドンコ属という独立・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・若楓柚の花や善き酒蔵す塀の内耳目肺腸こゝに玉巻く芭蕉庵採蓴をうたふ彦根の夫かな鬼貫や新酒の中の貧に処す月天心貧しき町を通りけり秋風や酒肆に詩うたふ漁者樵者雁鳴くや舟に魚焼く琵琶湖上のごときこの例なり。され・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 伯母の家に半年もいてから、私と母と姉とは汽車に乗り琵琶湖の見える街へ着いた。そこに父は新しく私たちの棲む家を作って待っていてくれた。そこが大津であった。私は初めてここの小学校へ入学した。湖を渡る蒸気船が学校のすぐ横の桟橋から朝夕出てい・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫