・・・ 友達がおかみさんを呼んで、一杯いただきたいが、晩くて迷惑なら壜詰を下さいと言うと、おかみさんは姉様かぶりにした手拭を取りながら、お上んなさいまし。何も御在ませんがと言って、座敷へ座布団を出して敷いてくれた。三十ぢかい小づくりの垢抜のし・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・チュウリップ酒で漬けた瓶詰です。しかし一体ひばりはどこまで逃げたでしょう。どこまで逃げて行ったのかしら。自分で斯んな光の波を起しておいてあとはどこかへ逃げるとは気取ってやがる。あんまり気取ってやがる、畜生。」「まったくそうです。こら、ひ・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・から決死隊で生還したという人の準備を聞くことが出来て、今日はどうぞこの包みが間に合うように、と願いながら緑茶を小さいカンにつめたり、かつお節をけずったり、紀さんに頼んで夜光磁石や、天文図やウィスキーの瓶詰などを陸軍の方から買ってもらう手筈を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫