・・・ひとにめいわくをかけて素知らぬ顔のできるのは、この世ならぬ傲慢の精神か、それとも乞食の根性か、どちらかだ。甘ったれるのもこのへんでよし給え。」言い捨てて立ちあがった。「あああ。こんな晩に私が笛でも吹けたらなあ。」青扇はひとりごとのように・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・妹も、そのころは、痩せ衰えて、ちから無く、自分でも、うすうす、もうそんなに永くないことを知って来ている様子で、以前のように、あまり何かと私に無理難題いいつけて甘ったれるようなことが、なくなってしまって、私には、それがまた一そうつらいのでござ・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・ 小鳥さえも居ない木から木へと見すかしては友達をさがす様な様子をして、甘ったれる様に鼻をならしたり小雨のしずくをはらう様に身ぶるいをしたりする。 楽しそうで又悲しそうに初めて野放しの馬を見た私の心は思う。 まるで百年の昔にもどっ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 何故、そんなに甘ったれるんだろう、 大きななりをしてながら、 私より貴方は随分かさばって居るもの。 でも今日はいつもよりよっぽど奇麗に見えてますよ、気持がいい着物の色が―― それにね、 貴方みたいな人は黒っぽい・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫