・・・……溝の上澄みのような冷たい汁に、おん羮ほどに蜆が泳いで、生煮えの臭さといったらなかった。…… 山も、空も氷を透すごとく澄みきって、松の葉、枯木の閃くばかり、晃々と陽がさしつつ、それで、ちらちらと白いものが飛んで、奥山に、熊が人立して、・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 日本の文化的指導者は祖国への冷淡と、民族共同体への隠されたる反感とによって、次代の青年たちを、生かしも、殺しもせぬ生煮えの状態にいぶしつつあるのである。これは悲しむべき光景である。是非ともこれは文化的真理と、人類的公所を失わぬ、新しい・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ これらの著者の態度は一方から云えば不徹底で生煮えのようでもあるが、ものの両面を認識して全体を把握し、しかもすべての人間現象を事実として肯定した上で、可と不可とに対する考えをきめようとしているらしく思われる。この点がどこか吾々科学者の心・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・好く煮えたのは得られないでも、生煮えなのは得られる。肉は得られないでも、葱は得られる。 浅草公園に何とかいう、動物をいろいろ見せる処がある。名高い狒々のいた近辺に、母と子との猿を一しょに入れてある檻があって、その前には例の輪切にした薩摩・・・ 森鴎外 「牛鍋」
出典:青空文庫