・・・ これですべての事の方はついて仕舞う、とは云えこの徳も力もないわしが、やがての時、見事にすこやかに生い立つべき種を消ゆる事なく眼にはよう見えぬ土に蒔いたと申す事はわしを安らかに、御国へ行かせる――息がきれた様に言葉の末をただほそ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・な豊富で脂濃い生活の獣的な屑を貫いて、「猶新鮮で健康な創造的なものがやっぱり勝を制して芽生えること、明るい人間的な生活に対する我等の再生に対する破壊し難い希望を呼び醒しつつ、善きもの――人間的なものが生い立つ」ロシア民衆の生活力の驚きと愛と・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・冷たき家庭に生い立つ子供は未来に希望の輝きがない。また安逸に執着する欲情を見よ。勉強するはいやである。勉強を強うる教師は学生の自負と悦楽を奪略するものである。寄席にあるべき時間に字書をさし付けらるるは「自己」を侮辱されたと認めてよい。かくし・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫