・・・我々が懐く凡ゆる感情、例えば怒り、憎しみ、または愛にもせよ、凡ての感激、冒険といったようなものは、人生及び自然から生起してくる刺戟である。この人生及び自然の存在を措いて、現実はない筈である。それであるから現実に徹することは、自己の生活に徹す・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・故に、一つの主義が勃興すれば、それと対蹠的な主義が生起する。かくして、その相剋の間に真理は見出されるのを常とします。しかし、真の殉教者は、そのいずれに於ても、狂信的なるものである。即ち新社会を建設する上に於て、貴い犠牲者でもあります。 ・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・或る作家は社会に生起する特殊の材料を取り扱い、或る作家は、永久に不変の自然を材料に取扱っている。畢竟、作家得意の観察から入り、深く人生に触れんとする努力から斯く異った態度を示すのである。是等の異った作家が各々異った意義と形の上で異った印象を・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・ こういういろいろの不思議な現象は、新聞社間の命がけの生存競争の結果として必然に生起するものであって、ジャーナリズムが営利機関の手にある間はどうにもいたし方のないことであろうと思われる。 ジャーナリズムのあらゆる長所と便益とを保存し・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・この現象が統計的型式から見て、いわゆる地震群の生起とよく似たものであることは、すでに他の場所で報告したことがあった。 もう一つよく似た現象としては、銀杏の葉の落ち方が注意される。自分の関係しているある研究所の居室の室外にこの木の大木のこ・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・幾千万の私たち大衆が、つつましく名もない生涯を賭しながら、自身の卑俗さともたたかいながら、日夜生きつつあるその歴史の価値についての理解、その歴史に生起する幾多の華麗ならざる偉大な行動への愛、無力なものがいかに終局において無力ならざるものであ・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
出典:青空文庫