・・・五円の草履は贅沢品ではない実用品だけれど、その五円の草履の実質は、どんなにもちのよいしっかりしたものだろうか。二十円以上の草履をこしらえてはいけなくなったために、草履屋は五円の品物を前よりはましにこしらえるというようなことがあり得るだろうか・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・ 三里ほど山中の、至って交通の不便な部落から、切石、鉱石、蒔炭の類を産するので、町への搬出を手軽く出来るように、町からそっちへ売りこむ日用品をも楽に供給するために、出来たことなのである。 ずいぶん粗末な小屋掛け同様の建物が出来、むこ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・明るい中でみつめるものの総ては土でも木でも色々な日用品でも皆、自然に微笑が湧きのぼる様な柔い気持になる。けれ共夜の暗い中で物を見つめて居る時の恐ろしい事と云ったら、もう躰がすくんでしまう様な、顔を掩わずには居られない様になる。私はじいっと眼・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・十月十日、出獄した同志たちは、治安維持法撤廃によって解体する予防拘禁所から、すぐ生活に必要な寝具、日用品、食糧、家具などをトラックにつみこんで、ここへ引越して来た。 重吉が網走からもってかえって来た人絹の古い風呂敷包みの中には、日の丸の・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫