・・・とはっきり云われると私は切ないからもうこういう法式で自分がかくことにしました、あなたにだけは。用足し手紙は仕方がないが。 寿江子の体いろいろありがとう。 こうやってチラチラと定まらない視線の間から、段々に少しずつ字も書いて行くのがい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 若し自分でも、フト用足しに起きでも仕て、彼那どこの馬の骨だか分りもしない奴の錆棒なんかで、グーンと張り倒されたなりにでもなって仕舞ったら、どんなだったろう。 さぞ私は美くしく、賢こく、好いお嬢様であった様に云われる事だったろうに。・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 二 竜池は家を継いでから酒店を閉じて、二三の諸侯の用達を専業とした。これは祖先以来の出入先で、本郷五丁目の加賀中将家、桜田堀通の上杉侍従家、桜田霞が関の松平少将家の三家がその主なるものであった。加賀の前田は金沢・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫