・・・ げに初冬の朝なるかな。 田面に水あふれ、林影倒に映れり」十二月二日――「今朝霜、雪のごとく朝日にきらめきてみごとなり。しばらくして薄雲かかり日光寒し」同二十二日――「雪初めて降る」三十年一月十三日――「夜更けぬ。風死し・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
八月二十六日床を出でて先ず欄干に倚る。空よく晴れて朝風やゝ肌寒く露の小萩のみだれを吹いて葉鶏頭の色鮮やかに穂先おおかた黄ばみたる田面を見渡す。薄霧北の山の根に消えやらず、柿の実撒砂にかちりと音して宿夢拭うがごとくにさめたり・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・「心も晴るる夜半の月、田面にうつる人影にぱつと立つのは、アレ雁金の女夫づれ。」これは畢竟枯荻落雁の画趣を取って俗謡に移し入れたもので、寺門静軒が『江頭百詠』の中に漁舟丿影西東 〔漁舟丿して影西東白葦黄茅画軸中 白葦黄茅・・・ 永井荷風 「向嶋」
出典:青空文庫