・・・「休戦を申込む方法はないか。」「そんなことをしてみろ、そのすきに皆殺しになるばかりだ!」「逃げろ! 逃げろ!」 フョードル・リープスキーという爺さんは、二人の子供をつれて逃げていた。兄は十二だった。弟は九ツだった。弟は疲れて・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・そんなら何も私なんかと逢ってくれなくてもよさそうなものだが、この町の知識人としての一応の仁義と心得ているのか、わざわざ私に会見を申込む。 ついせんだっても、この町の病院に勤めている一医師から電話が掛って来て、今晩粗飯を呈したいから遊びに・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・しかし学者が第一次の近似を求めて真理の曙光を認めた時に、世人はただちに枝葉の問題を並べ立てて抗議を申込む。例えば天気予報などもある意味においてそうである。第一次の近似だけでもそのつもりで利用すれば非常に有益なものである。第二次第三次と進むに・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・はこれに限るよと降参人と見てとっていやに軽蔑した文句を並べる、不肖なりといえども軽少ながら鼻下に髯を蓄えたる男子に女の自転車で稽古をしろとは情ない、まあ落ちても善いから当り前の奴でやってみようと抗議を申し込む、もし採用されなかったら丈夫玉砕・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・おれはきさまに決闘を申し込むのだ、全体きさまはさっきから見ていると、さもきさま一人の野原のように威張り返っている。さあ、ピストルか刀かどっちかを撰べ。」 するとデストゥパーゴはいきなり酒をがぶっと呑みました。 ああファゼーロで大丈夫・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・丁度、英語を喋る国の女が、自分の良人を第三者に対して話す時には、ミスター・誰々と姓を呼ぶ、それと共通な心理なのだと抗議を申し込むでしょう。 言語、習俗が著しく異った場合、斯様な誤謬は起り易い。而して結果としては、双方が見出すべき大なり小・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫