・・・これは結局は社会改革と男性の矜りある自覚とにまたなければならない問題である。母性愛と職業との矛盾は国家の保護政策を抜きにして解決の道はない。元来子孫の維持と優生という男女協同の任務の遂行が、女子に特別な負荷を要求する以上、男子が女子を保護し・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・駄目、駄目、もうすこし男性の心情が理解されそうなものだとか、もうすこし他の目に付かないような服装が出来そうなものだとか、もうすこしどうかいう毅然とした女に成れそうなものだとか、過る同棲の年月の間、一日として心に彼女を責めない日は無かった――・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・ アグリパイナの男性侮辱は、きわめて自然に行われ、しかも、歴史的なる見事さにまで達した。時の唇薄き群臣どもは、この事実を以て、アグリパイナの類まれなる才女たる証左となし、いよいよ、やんやの喝采を惜しまなかった。 アグリパイナの不幸は・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ これ、これが、私の最も関心を有し、かつ久しく待ち望んでいたところのものでございまして、もうこれからは私も誰はばかるところなく、男性の権利を女性に対して主張する事が出来るのかと思えば、まことに夜の明けたる如き心地が致しまして、おのずから微笑・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ その解明は出来ないけれども、しかし、アブラハムは、ひとりごを殺さんとし、宗吾郎は子わかれの場を演じ、私は意地になって地獄にはまり込まなければならぬ、その義とは、義とは、ああやりきれない男性の、哀しい弱点に似ている。・・・ 太宰治 「父」
・・・鋼鉄の感じである。男性的だ。ひょっとしたら、鉄面皮というのは、男の美徳なのかも知れない。とにかく、この文字には、いやらしい感じがない。この頑丈の鉄仮面をかぶり、ふくみ声で所謂創作の苦心談をはじめたならば、案外荘重な響きも出て来て、そんなに嘲・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・それらの気質は、すべて、すこぶる男性的のもののように受取られているらしいけれども、それは、かえって女性の本質なのである。男は、女のように容易には怒らず、そうして優しいものである。頑固などというものは、無教養のおかみさんが、持っている頗る下等・・・ 太宰治 「如是我聞」
制服の処女 評判の映画「制服の処女」を一見した。最初に、どこかの柱廊前に並んだ、ものはなんだかわからないが、何かしら勇ましくたくましい男性的彫像などが現われ、それから男性的なラッパの音に導かれて兵隊の行列が・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・この鵺だけが雌で、他の三匹はいずれも男性であった。 生長するにつれて四匹の個性の相違が目について来た。太郎はおっとりして愛嬌があって、それでやっぱり男らしかった。次郎もやはり坊ちゃんらしい点は太郎に似ていたが、なんとなく少し無骨で鈍なと・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・富士が女性ならばこれは男性である。苦味もあれば渋味もある。誠に天晴な大和男児の姿である。この美しい姿を眺めながら妙な夢のような事を考えてみるのであった。 誰かも云ったように、砂漠と苦海の外には何もない荒涼落莫たるユダヤの地から必然的に一・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
出典:青空文庫