・・・前夜の夕刊に青森県大鰐の婚礼の奇風を紹介した写真があって、それに紋付き羽織袴の男装をした婦人が酒樽に付き添って嫁入り行列の先頭に立っている珍妙な姿が写っている。これが自分の和服礼装に変相し、婚礼が法事に翻訳されたのかもしれない。紫色の服を着・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・老人や軍人の男装をした踊り子までがみんな女の子のきいきい声を出すので猶更そういう「毀れやすい」感じを起こさせるようである。例えばヴァイオリンのE線だけによる協奏楽というものが、もしあったとしたら、丁度こんなものではないかという気がした。テン・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ 大阪の実業家で、もう十四五年も妻と別居し別の家庭を営んでいる増田というひとの娘富美子が大金をもって家出をして、西条エリとあっちこっち贅沢な旅行をした後、万平ホテルで富美子が睡眠薬で自殺しかけた事は、男装の麗人という見出しで各新聞に連日報道・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・山岸宏の姉妹の一人は、中国への侵略戦争の当時、男装して軍と行動をともにして一冊の本をかきました。兄妹の情愛にファシストとしてながれる思想がつらぬかれていたわけです。 現実の社会はあまくありません。ファシストとよばれる人びとのなかにやはり・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫