・・・ 何人も疑う所のない点を疑う人は知識界に一時機を画する人である。 一人にしてその二を兼ぬる人ははなはだまれである、これを具備した人にして始めて碩学の名を冠するに足らんか。 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・弁については古往今来諸家によって説き尽くされたことであって、今ここに敷衍すべき余地もないのであるが、要するにこれは俳諧には限らずあらゆるわが国の表現芸術に共通な指導原理であって、芸と学との間に分水嶺を画するものである。最も卑近な言葉をもって・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・前者の拘束範囲が一つの面であるとすれば、後者はその面内にただ一つの線を画するような感じがある。もしこういう拘束がなかったとすると各自の個性はその最も安易な出入り口にのみ目を向けるであろうが、定座の掟によってそれらのわがままの戸口をふさがれて・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫