・・・われを描いて、醜悪絶類ならしむるものは画工のさかしらなり。わがともがらは、皆われの如く、翼なく、鱗なく、蹄なし。況や何ぞかの古怪なる面貌あらん。」われ、さらに云いけるは、「悪魔にしてたとい、人間と異るものにあらずとするも、そはただ、皮相の見・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・ つれは、毛利一樹、という画工さんで、多分、挿画家協会会員の中に、芳名が列っていようと思う。私は、当日、小作の挿画のために、場所の実写を誂えるのに同行して、麻布我善坊から、狸穴辺――化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
時。 現代、初冬。場所。 府下郊外の原野。人物。 画工。侍女。 貴夫人。老紳士。少紳士。小児五人。 ――別に、三羽の烏。小児一 やあ、停車場の方の、・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・――画工は画工で、上野の美術展覧会に出しは出したが、まったくの処は落第したんだ。自棄まぎれに飛出したんで、両親には勘当はされても、位牌に面目のあるような男じゃない。――その大革鞄も借ものです。樊はんかいの盾だと言って、貸した友だちは笑ったが・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・『下手な画工が描きそうな景色というやつに僕は時々出あうが、その実、実際の景色はなかなかいいんだけれども。』『だから下手が飛び付いて描くのですよ、自分の力も知らないで、ただ景色のいいに釣られてやるのですからでき上がって見ると、まるで景・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・今日では誰も知っている彼の Meudon の佳景を発見したのは自然を写生するために古典の形式を破棄した Franais 一派の画工である。それからずっと上流の Mantes までを探ったのは Daubigny である。今まではその地名さえも・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・御承知の大雅堂でも今でこそ大した画工であるがその当時毫も世間向の画をかかなかったために生涯真葛が原の陋居に潜んでまるで乞食と同じ一生を送りました。仏蘭西のミレーも生きている間は常に物質的の窮乏に苦しめられていました。またこれは個人の例ではな・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・この約束が成立してから裸体画はようやくその生命を繋ぐ事ができたのであって、ある画工や文芸批評家の考えるように、世間晴れて裸体画が大きな顔をされた義理ではありません。電車は危険だが、交通に便だから、一定の道路に限って、危険の念を抽出して、ある・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・春の、ホコホコと暖かい心持ちのよい日に、春の海を眺め春の山を望みボケの花の中で茫然として無我の境に無我の詩を造る。画工さんはまず自己を救った。すべての物質的人事を超越している。この画かきさんが大なる決心と気概とをもって、霊の権威のために、人・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫