・・・すると、何処からか番人が出て来て、見物を押分け、犬の衿上をむずと掴んで何処へか持って去く、そこで見物もちりぢり。 誰かおれを持って去って呉れる者があろうか? いや、此儘で死ねという事であろう。が、しかし考えてみれば、人生は面白いもの、あ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・先生、この時、チョイと目を転じて、メートルグラスの番人を見た、これはおかわりの合図。「だが、……コーツト、題はなんといたしましょう、男的閣下。題は、題は。」「だから言うじゃアないか、題はおれが、おれが考えがあるから可と言うに。」・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・人家もなかった。番人小屋もなかった。嘴の白い烏もとんでいなかった。 そこを、コンパスとスクリューを失った難破船のように、大隊がふらついていた。 兵士達は、銃殺を恐れて自分の意見を引っこめてしまった。近松少佐は思うままにすべての部下を・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・すると、樫の棒を持った番人が銅羅声をあげて、掛小屋の中から走り出て来る。 が、番人が現場へやって来る頃には、僕等はちゃんと、五六本の松茸を手籠にむしり取って、小笹が生いしげった、暗い繁みや、太い黒松のかげに、息をひそめてかくれていた・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・おまいはおれの店の番人になるか。え? 今んとこはまったくやせ犬の見本みたいだが、二週間もたてばむくむくこえていい犬になる。おい、おれんとこにもいい犬がいたんだよ。そいつがにげ出して殺されたんだ。おまいは、かわりに、おれんとこの子になるか。な・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・ 少年は素早くズボンをはき、立ち上って、「君は、この公園の番人かい?」 私は、聞えない振りをした。あまりの愚問である。少年は白い歯を出して笑い、「何も、そんなに怒ること無いじゃないか。」 と落ちついた口調で言い、ズボンの・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・校舎の番人としては、小使いのほうが先生よりも、ずっと役に立つし、そもそもこの、先生という言葉には、全然何も意味が無い。むしろ、軽蔑感を含んでいる言葉だ。どうせからかうつもりなら、いっそもう、閣下とでも呼んでもらいたい。僕たちの社会的の地位た・・・ 太宰治 「春の枯葉」
一 涼しさと暑さ この夏は毎日のように実験室で油の蒸餾の番人をして暮らした。昔の武士の中の変人達が酷暑の時候にドテラを着込んで火鉢を囲んで寒い寒いと云ったという話があるが、暑中に烈火の前に立って油の煮える・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・また番人の子供やばあさんもほんとうに絵のようで愉快でした。日本にもあるような秋草が咲いていたり、踏切番の小屋に菊が咲いていたり、路傍のマリヤのみ堂に花が供えてあるのも見ました。シャモニの町へはいるころには、もう日が暮れかかって、まっかな夕日・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・ちゃんと番人までつけて、線香を絶やさないようにしてある。 そこで上官の方にもお目にかかって、忰の死んだ始末も会得の行くように詳しくお話し下すったんですよ。その時お目にかかって、弔みを云って下さったのが、先ず連隊長、大隊長、中隊長、小隊長・・・ 徳田秋声 「躯」
出典:青空文庫