・・・ この無頓着な人と、道を求める人との中間に、道というものの存在を客観的に認めていて、それに対して全く無頓着だというわけでもなく、さればと言ってみずから進んで道を求めるでもなく、自分をば道に疎遠な人だと諦念め、別に道に親密な人がいるように・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・しかしどれ程疎遠な物にもたまたま行摩の袖が触れるように、サフランと私との間にも接触点がないことはない。物語のモラルは只それだけである。 宇宙の間で、これまでサフランはサフランの生存をしていた。私は私の生存をしていた。これからも、サフラン・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・そんなに御疎遠になったのを残念に思うことは、わたくしの方が一番ひどいのです。貴夫人。でも只今お目に懸かることの出来ましたのは嬉しゅうございますわ。過ぎ去った昔のお話が出来ますからね。まあ、事によるとあなたの方では、もうすっかり忘れてしま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫